唯一無二の“油かす麻婆豆腐”で勝負する中華店の信念|黒龍天神樓
大阪・天満橋の人気中華「黒龍天神樓」。名物“油かす麻婆豆腐”誕生秘話、スタッフへの感謝、マニュアルに縛られない接客方針など、オーナー黒川氏が語る「料理人×経営者」の哲学に迫ります。
黒龍天神樓 オーナー 黒川 修平 (くろかわしゅうへい)
Q:黒川社長、今日はよろしくお願いします。まず最初に黒川社長がどういった経緯で中華料理店を創業されたのか?を聞かせて頂けますでしょうか?
父が大阪市此花区で天天菜館という中華料理店を創業し現在でも経営しているのですが、その父に昔、天王寺に商業ビルが建ったときに「出店しないか?」というオファーをもらったのがキッカケでした。そのお店は黒龍天神樓という屋号名ではなく黒龍江大飯店という屋号で父と一緒に出店させて頂いたのですが、その後アイスホッケー仲間の顧問税理士から「下の居酒屋が空きそうだから店出さないか?」と打診を受けたんですよ。その場所が今の黒龍天神樓があるお店なんです。2005年に父と一緒に黒龍天神樓を出店しその5年後の2010年に事業を父から承継しそのタイミングで僕が代表者となり株式会社ベネボを設立しました。

Q:ありがとうございます。黒龍天神樓さんと言えば「油かす入り麻婆豆腐」が大人気でお店の特徴でもあるのかなと思いますが「油かす入り麻婆豆腐」の誕生秘話をお聞かせください。
2005年のオープン当初から四川麻婆豆腐を提供していたのですがこのお店でしか食べられない大阪らしい麻婆豆腐を作りたいという気持ちが当初からあったんですよね。その為に色々と勉強していたのですが、その時に「No.1の法則」という考え方を学び共感しその考えはカテゴリーを一番早く始めることによってNo.1になれるという考え方であり、大阪らしい麻婆豆腐を作りたいと思いで大阪のソウルフード「油かす」を探している中「油かすうどん」で有名な“龍の巣”の代表畑社長と出会い美味しい油かすを麻婆豆腐に入れる事を決めました。

Q:ありがとうございます。でも唯一無二のカテゴリーを作ろう!と思ったら油かすに拘らずにあのカテゴリーを作ろう!このカテゴリーを作ろう!とブレてしまいそうですよね。そう考えると“油かす”以外にも、たくさんのアイデアがお在りだったのかな、と思うのですが、なぜ油かす入り麻婆豆腐で勝負をされようと思われたのでしょうか?
和食で有名ながんこフードサービスの小嶋社長からのご助言頂いたひと言がキッカケだったんですよ。創業してから間もなく、エンタメ要素を取り入れようと!とブレ始めていた時期があったんですよね。そんな時に小嶋社長にふと「お店を長く続けるにはどうしたらいいか?」をお聞きした時に「黒川君は美味しい料理を提供してるんだから、変わらず、その料理を提供し続ければいいよ」とおっしゃって頂いたんです。それを聞いて「ドシッ」と構えて、地に足付けて油かす入り麻婆豆腐で勝負して行こう!と決意したんですよ。そういう意味では小嶋社長には感謝しかありませんね。
Q:確かにそのご助言がなければ油かす入り麻婆豆腐がお店の特徴になってなかったかも知れないですしね!それは感謝ですよね!ところで今まで支えてくれたスタッフにはどんな思いをお持ちですか?
もうやっぱり感謝しかありませんよね。スタッフさんがいなければ確実にお店は成り立ちません。父に昔から「お店作りは、お前の今までやってきたアイスホッケーと同じでチーム作りだぞ!」と叩き込まれてきました。僕も本当にそう思うんですよね。黒龍天神樓をアイスホッケーのチームに例えると僕が監督です。が故に司令塔となり様々な指示もしていく中で、その指示を素直に受け入れてくれたことに感謝していますね。

Q:そうですよね!ありがとうございます。これまでたくさんのスタッフさんに支えられてきたのかなと思うのですがその秘訣といいますか、心掛けてきたことがあればお聞かせください。
そもそも僕たちは、黒龍天神樓のスタッフである以前に人間なわけです。それは日頃から足を運んでくださるお客様もそうですね。ですのでお客様にもスタッフにも楽しんでもらいたい、という思いがあります。ではどうやったら楽しくなるのか?を突き詰めていった時に、辿り着いた一つの答えが「マニュアル通りの接客をやめる」ということでした。こうすることによってお客様がされたい会話ができるようになっていくと思うんですよね。この取り組みは2008年頃から心掛けてきたことなので、随分定着してきたと思いますよ。マニュアルがなかったら初出勤の時どうしたらいいの?と思われるかも分かりませんが初日はずっと先輩たちの業務を見てもらう事で、マニュアルのない接客とは、どんなものなのか?ということを肌で感じて欲しいと思っています。
Q:マニュアルがないなんて珍しいですよね!求職者の方は「マニュアルがガチガチでやりたい事ができないかも?」なんて思われてる方も少なからずいらっしゃいそうですがその辺りはいかがでしょうか?
飲食店の仕事は多岐に渡ります。料理に、接客に、片付けから、情報発信、会話を広げる為の情報収集、メニュー開発、、、こんな具合ですが僕が一つ思う所はこれらの事をマニュアル通りに詰め込み過ぎなんですよね。一度にドカッとやろうとする。そこにスタッフがやりたい事との矛盾がうまれモチベーションが下がってしまう要因だと思うんですよ。ですので黒龍天神樓ではスタッフがすべき仕事について細かくステップを踏むようにしていますね。

Q:それは初めて飲食業を経験する求職者にとっては嬉しくもあり御社の強みでもありますよね。その他に強みってございますか?
実は最近テレビの取材が増えてるんですよ。2023年から今までに3回の機会に恵まれました。ですのでテレビに出れるかも知れませんよ(笑)。なんてのは冗談でこれまでやってきたことが徐々に受け入れられブランド力がついてきた証拠だと思ってるんですよね。ですので今後は、お!と思わせてくれる人材が来てくれたら暖簾分けもしていきたいなと考えていたところなんですよ。
Q:暖簾分けなんて、まさしくやりたい事がやれるチャンスですもんね!ありがとうございます。続きまして黒川さんが、いち料理人として、いち経営者として大切にされてる考え方などはございますか?
僕は食を通してお客様の命を預かっていると思っています。そう思うとお医者さまと似たような感覚を持っているかも知れませんね。飲食店は絶対になくならない業界です。なぜならシンプルに食べないと人は生きてはいけないからです。でもその食べるものが粗悪なものであればお客様の命に関わるかもしれない。すこし極端かも分かりませんがこういった考え方が根底に流れていますね。
Q:ありがとうございます。最後に読者の皆様へのメッセージをお願いします。
物価高騰、人件費高騰、と厳しい業界ですが、ぜひとも力を貸して頂けたらと思っています。
黒龍天神樓 アルバイトスタッフ 平川優花(ひらかわゆうか)
Q:続いてアルバイトスタッフの平川さん、よろしくお願いします。まず最初にお仕事内容と得意分野からお聞かせください。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。ランチの時間帯を中心にホール業務全般を担当しています。黒龍天神樓では油かす入りの麻婆豆腐が看板メニューですが、前菜や手作り餃子なども根強い人気があり、そちらの仕込みにも携わらせていただいています。

Q:ありがとうございます。平川さんは黒龍天神樓を一度お辞めになられ、2025年に再入社されたと伺っております。どのような経緯だったのでしょうか?
黒龍天神樓を退職後、別の職場で働いていたのですが、体調を崩して退職することになり次の働き先を探していました。ただ当時は妊娠していたこともあり、働きやすくて融通の利く職場を希望していたんです。創業20周年を迎えてもなお鍋を振るうオーナーの黒川と、このお店で働くキッカケをくれた店長には、右も左もわからなかった私に社会人としての基礎を一から教えていただきました。そんなお二人のもとでもう一度働きたいという思いが強くなり再入社を決めたんです。
Q:「働きやすい環境」とのことですが、具体的にどのようなところでそう思われるのでしょうか?
とにかく自由にやらせていただけるところですね。決まりきったマニュアル等がない分、自分のやり方で仕事に取り組めるんです。それはメニューづくりにおいても同じで、特に季節ごとの期間限定メニューでは前菜を中心に「どんな料理にするか」というところから関わらせてもらっています。もともと料理といっても家でつくる程度で「中華」なんてほとんど作ったことがありませんでした。でも、こうして新しいことに挑戦させてもらえることで、知らなかった世界に触れることができる。それがすごく楽しくて、このお店で働いて良かったな、と思うところですね。

Q:ありがとうございます。黒龍天神樓で働くようになって、ご自身の中で変わったなと感じる部分はありますか?
他のお店で食事をしているときについ細かいところが気になるようになったことですね。純粋に食事を楽しみたいと思っていても、料理の盛りつけや接客、お店の雰囲気など、良いところも悪いところも目についてしまうんです。おそらくは私自身がメニューづくりから関わらせてもらっているからこそだと思うんですが、そういった視点が自然と身についたのは、良くも悪くも自分の中に起きた変化だなと感じています。
Q:今後、黒龍天神樓に期待されることがあれば、お聞かせください。
20周年を迎えた黒龍天神樓がこれから先もずっと続いてほしいと思っています。先ほども少しお話ししましたが、オーナーの黒川さんや店長には社会人としての基礎を一から教えていただきましたし、今も縛られることなく自由に働かせていただいています。お客さまからも長く親しまれていて、働くスタッフにとっても働きやすい場所がこのまま長く続いていってくれたら嬉しいですね。